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2015-10-07 21:58:00
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平成27年10月7日の朝日新聞の朝刊に、載せて頂きました。

わがまちの繁盛店  久富  (阿倍野区)

懐石の技 「おばんざい」に

 

懐石料理で腕をふるう料理人のランチが人気と聞いて、訪れた。

地下鉄御堂筋線昭和町駅から徒歩3分。松虫通りから路地を1本入った住宅街の一角に、四季菜「久富」はあった。

家紋入りののれんが下がる外観は懐石料理店そのもの。カウンター8席、テーブル3卓とこじんまりしている。

「きょうのメニューです」。おかみさんの北田賀子さん(41)が、メニューを手書きした黒板を目の前に置いてくれた。

焚き合わせ、鯛造り、茶碗蒸し、ミンチカツなど約30種類。どれもその日仕込んだ自慢の惣菜、「おばんざい」で、

自由に組み合わせ、自分好みの昼ご飯をつくることができる。

 

店主の晃久さん(50)は、辻調理師専門学校で学び、大阪市内の数々の日本料理店で修業を積み、

12年前に懐石料理専門店として開店した。

腕には自信があった。負けず嫌いの性格で、開店当初、周辺の懐石料理店や他店の先輩料理人たちを意識しすぎ、

「力みすぎていました」

 

数年前、ふと、昭和町かいわいはお年寄りが多いと気付いた。懐石はコース料理。量が多くて最後まで食べきれない人がいた。

一人暮らしのお年寄りなら、そもそも懐石を食べに来ない。

店の経営は景気にも左右された。

晃久さんは、地元に根差した庶民的なメニューの方がよいのではと思う反面、高度な料理技術を見せられる懐石料理へのこだわりがあった。

1年近く悩み、今年1月に出した結論が、懐石料理で培った技術を生かしたランチタイムの「おばんざい」だった。

実は、賀子さんも「辻調」の卒業生。季節感をどう出すかや、味付けに悩む時は、「ちょっと味見してみて」。

プロの料理人同士の夫婦ならではのやりとりが、調理場の内外で行き交う。

 

毎朝午前5時からの仕込みでは、新潟から取り寄せた玄米を精米して米を炊く。

カツオと昆布でとったダシを利かせた和食から、若い人向けの揚げ物までメニューに幅をもたせた。

地元の人の朝ご飯代わりにと、午前9時から営業している。

「新しい一歩は勇気が必要でしたが、地元の人が喜んでくれるのが一番。この値段でこの味かと言われたい」と晃久さん。

懐石料理に賭けた料理人の意地は消えていない。